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福岡高等裁判所 昭和27年(ナ)13号 判決

原告 前田幸作

被告 福岡県選挙管理委員会

被告補助参加人 高丘稔 外五名

一、主  文

本訴を却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は「昭和二十六年四月二十三日執行の福岡市議会議員選挙の効力に関し被告のなした昭和二十七年四月二日付訴願裁決を取消す。右選挙は無効とする。訴訟費用は被告の負担とする」という判決を求め、その請求の原因として、

一、原告は昭和二十六年四月二十三日執行の福岡市議会議員選挙(以下本件選挙と称する)の選挙人であるが、他の選挙人等とともに同年五月六日福岡市選挙管理委員会に対し本件選挙につき選挙及び当選の効力に関する異議の申立をしたところ、同委員会は同月二十一日異議を棄却する旨の決定をした。そこで原告は同年六月一日被告に対し訴願を提起したところ、被告は昭和二十七年四月二日付を以て当選の効力に関する訴願について当選人中森重夫外十三名の当選を無効とし選挙の効力に関する訴願を棄却する旨の裁決をなし、原告は同月四日その裁決書の交付を受けた。

二、しかし本件選挙は左の理由によつて無効である。

(一)  公職選挙法第二六条の規定によれば補充選挙人名簿は申請によつて調製されるものであるが、その申請があるときは、市町村選挙管理委員会は選挙権の要件を調査確認した上補充選挙人名簿を調製しなければならない。しかるに福岡市選挙管理委員会は、本件選挙にあたり補充選挙人名簿<補ニ>を調製するについて、選挙権の要件を調査しないで申請どおりに調製している。そのため右補充選挙人名簿には、被告も本件訴願裁決において認めているように、(イ)二十歳未満の臼井貞雄を選挙人として登載し、(ロ)選挙人武田由雄を二重に登載し、(ハ)同裁決書添付の別表三の三に記載する住所に関する要件を具備しない新見紀一以下八名を選挙人として登載している外、(ニ)同別表三の二に記載する船員四〇七名も住所に関する要件を具備しないものと認むべきであるのに、これらのものも選挙人として登載しているのである。本件訴願裁決において被告がその調査に基き認定したところによると、右四〇七名の船員の乗船する船舶は遠洋底引漁業に従事し博多港を基地として東支那海方面に出漁し、出漁期間は一航海十七日乃至二十五日位で入港は博多港に限られ同港停泊期間は一航海に四、五日位であるというのであるから、これらの船員は住所に関する要件を具備しないものといわなければならない。

右補充選挙人名簿にはこのような瑕疵があるにかかわらず該選挙人名簿に基き本件選挙を行つたのは違法であつて、その違法は選挙の結果に異動を及ぼす虞があるものといわなければならない。

(二)  本件選挙において有効投票として処理されたものの中に二〇四票の潜在無効投票(前示(一)の(イ)(ロ)(ハ)の分を含む)があることは被告も本件訴願裁決において認めるところであるが、この外同裁決書添付の別表中に「棄権」と表示している選挙人一七八名は、選挙人名簿の当該選挙人の名下に押捺されている認印によつて明なとおり、投票用紙の交付を受けているのであるから、本人が棄権したとすれば本人以外のものによつて不正投票が行われたものという外はない。従つて一七八票の潜在無効投票があることになる。又本件訴願裁決書添付の別表に記載する調査事項を検討すると、選挙人田中百合松以下四〇名も住所に関する要件を具備しないものと認むべきであるから、これらのものの投票も潜在無効投票といわなければならない。なお前示(一)の(ニ)の船員四〇七名の投票ももとより潜在無効投票である。

ところでこれらの無効投票者は選挙権の要件を具備しないもの又は選挙人の名を冒用したものであつて、これらのものに投票用紙を交付すべからざることは勿論であるにかかわらず、福岡市選挙管理委員会がこれらのものに投票用紙を交付して投票させたのは選挙の管理を誤つたものといわなければならない。

そうして、潜在無効投票の処理に関する公職選挙法第二〇九条の二の改正規定を改正前の選挙に遡及して適用し、従前の行政実例及び判例に則り裁判を受くることを拒否することは、憲法第三九条、第三二条に違反するものであるから、前示潜在無効投票を従前の行政実例及び判例に則つて処理すると本件選挙の当選人中過半数の者の各得票数は次点者の得票数以下になるから、本件選挙は全部無効である。

と陳述し、なお被告補助参加人の抗弁に対し、

本件選挙の効力等に関する異議申立書及び訴願書には「福岡市政刷新会、代表者前田幸作」と記載しているけれども、前田幸作の氏名以外の右記載は訴願法第六条第一項にいわゆる訴願人の身分を表示したものであつて、前田幸作個人が異議及び訴願の申立人である。被告補助参加人主張の別件訴訟の確定判決は本件異議及び訴願の適否に関し既判力を有するものではない。

と述べた(証拠省略)。

被告訴訟代理人は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする」という判決を求め、答弁として、

一、原告主張の一の事実は認める。

二、同二の(一)の事実中、原告主張の補充選挙人名簿に二十歳未満の臼井貞雄及び福岡市内に住所を有しない新見紀一以下八名を選挙人として登載し且つ選挙人武田由雄を二重に登載していることは認めるが、原告主張の船員四〇七名は福岡市内に住所を有するものであるからこれらの船員を補充選挙人名簿に登載したのは違法ではない。

同二の(二)の事実中、本件選挙において有効投票として処理されたものの中に二〇四票の潜在無効投票があることは認めるが、原告主張のその他の潜在無効投票は認めることができない。本件訴願裁決書添付の別表一の一、二の一、三の一及び四の一中に「棄権」と記入しているのは、選挙人名簿に投票用紙を交付したことを示す捺印又は記号がないため投票用紙の交付を受けていないと認められる選挙人を表示したものである。補充選挙人名簿中原告主張の一七八名の選挙人の名下にそれぞれ投票用紙を交付したことを示す認印が押捺されているという原告の主張は、事実に反するものである。

と述べた(証拠省略)。

被告補助参加代理人は「本訴を却下する」という判決を求め、その理由として、

原告が本訴において取消を求める訴願裁決は、当事者適格を有しない福岡市政刷新会の異議及び訴願にもとづくものであつて、このことはすでに福岡高等裁判所昭和二十七年(ナ)第一二号事件の確定判決によつて確定され、該確定判決は形成判決であるからその既判力は本訴の原告にも及ぶものである。従つて、本訴は公職選挙法第二〇三条第二項の規定に違反し適法な異議の決定及び訴願裁決を経由しないものであるから、不適法として却下すべきである。

と述べた(証拠省略)。

三、理  由

職権を以て本件訴の適否を検討する。

成立に争のない丙第十一号証によると、被告補助参加代理人の主張する別件訴訟事件の確定判決は、本件異議及び訴願は福岡市政刷新会の申立によるものと認め、かような法定の申立資格のないものの申立による不適法な異議及び訴願を看過してなされた訴願裁決中当該訴訟において取消を申立てた部分を取消したものである。被告補助参加代理人は、本件異議及び訴願が福岡市政刷新会の申立によるものであることは右の確定判決によつてすでに確定され、該判決は形成判決であるからその既判力は本訴の原告にも及ぶものである、と主張するのである。しかし右確定判決は本件異議及び訴願を不適法たらしめる理由について既判力を有するものではない。従つて本件異議及び訴願が何人によつてなされたかは、本訴において更に判断しなければならない。

成立に争のない丙第十三号証の本件異議申立書には、その頭書に、

「福岡市南高宮町五五五番地

福岡市政刷新会

委員代表 前田幸作」

と記載し、末尾に「異議申告人、福岡市政刷新会」「代表者 前田幸作」と併記し、更に委員として古川初雄外十四名の氏名を連記している(但し名下に押印のあるのは前田幸作外六名だけである)。又成立に争のない丙第十五号証の一の本件訴願書には、その頭書に

「住所     福岡市南高宮町五五五番地

職業     会社員 福岡市政刷新会

異議申立人、 代表者  前田幸作」

と記載し、末尾に「訴願人前田幸作」と記載している。更に成立に争のない丙第十五号証の二及び三の各「訴願の証拠追加書」と題する書面には、それぞれその末尾に「福岡市政刷新会代表、前田幸作」と記載し、その名下に捺印があり成立に争のない丙第十五号証の四の訴願書(最終追加分)と題する書面にも、その表紙に「福岡市政刷新会」「代表、前田幸作」と併記し、本文の末尾に「福岡市政刷新会代表」「前田幸作」と併記してその名下に捺印している。そこで本件異議及び訴願の申立人が果して福岡市政刷新会であるか、それとも同会の代表者又は委員である前田幸作その他の個人であるかについて疑議を生ずるわけである。凡そ、選挙又は当選の効力に関し異議又は訴願の申立をなし得るものは当該選挙の選挙人又は候補者に限られ、法人その他の団体にはこのような申立をなす適格がないことは公職選挙法第二〇二条、第二〇六条の規定によつて明であろうと共に、異議又は訴願の申立はなるべくこれを有効ならしめるように解釈すべきことも異論のないことであるから、後記のような本件に於ける特殊な事情を顧みないならば、本件異議は前田幸作その他の委員個人により又本件訴願は前田幸作個人によりなされたものとみるのも、あながち不当ではないかも知れない。しかし、本件異議及び訴願の申立書類における表示は前記の通りであつて、その通常の用例からみて福岡市政刷新会を申立人としたものと認むるのが相当であるのみならず、成立に争のない丙第三乃至第五号証、同第六及び第七号証の各一、二、同第十号証、原告本人の供述の一部及びこれによつて成立を認むべき甲第一号証の一、二中第二号証を綜合すると、福岡市政刷新会は昭和二十六年五月三日原告前田幸作外五十数名が福岡市記念館に会合した際に、市政刷新を目的として結成されたものであり、本件の異議及び訴願はいずれも同会の議決にもとづくものであつて、同会は本件異議又は訴願の取下に会員中一名でも反対するものがあればその取下をなさない旨の議決をなし、この議決は会員を強く拘束し一部市民によつてなされた本件訴願取下の折衝もついに不調となり、同会名義の公開声明書には種々の理由を掲げて訴願の取下をなさないことを明言し、本件訴願裁決後本訴提起前に発せられた福岡市議会議長等に対する同会名義の公開質問書には、選挙粛正の目的は一応達成したから他動的情勢がでない限り同会としては訴訟をしないが当選議員側において提訴するときは敢然訴訟をする旨を強調するなど、本件異議及び訴願が同会自身の申立によるものであるという立場を堅持し、福岡市公報を以て告示された同会の収支報告書にも訴願料金八千円を支出した旨の記載があることが認められる。尚証人大神嘉男の第二回の証言によれば、丙第十三号証の異議申立書に福岡市政刷新会の委員の一名として記名捺印している土居初次は、別個に個人として本件選挙につき異議申立をした事実をも認めることができる。これらの事実を考え合せると、本件異議及び訴願は福岡市政刷新会の申立によるものであつて前田幸作その他の個人がその申立をしたものではないと認めざるを得ないのである。

原告本人の供述及び証人古川初雄の証言中叙上の認定に反する部分は前示各証拠に照したやすく信用することができない。尤も前示甲第一号証の一、二及び甲第二号証によると、福岡市政刷新会が昭和二十六年五月三日結成された当時には、本件異議申立書に同会委員として連記されている古川初雄外十四名を委員に、又前田幸作を会長が正規に選任されるまでの代表者にそれぞれ選任し、且つ本件選挙に関し各自資料を持寄つて異議の申立をなすことを議決し、会則及び会長の決定を後日に譲つたことが認められる。しかし会則及び会長がその当時決定していなかつたからとて、その後なされた本件異議及び訴願が同会の申立によるものでないとはいえない。成立に争のない丙第十六号証の一乃至三によると、福岡市政刷新会は昭和二十六年五月三十日結成されたものとして、団体等規正令にもとづき同月三十一日付を以て福岡市長に結成届をなしているけれども、それは結成届を怠つていたので他人の注意により遅ればせに届出でたものであることは原告本人の供述によつて明であるから、同届書中の結成日時は信用することができない。従つてこれ亦本件異議申立当時同会が結成されていなかつたという資料とするに足らない。なお証人古川初雄の証言、成立に争のない甲第七号証の一及び原告本人の供述によると、本件選挙と同時に執行された福岡市長選挙における当選の効力に関する右甲第七号証の一の異議申立書にも、異議申立人として福岡市政刷新会代表又は委員前田幸作外十五名の氏名を連記し、その内古川初雄外四名の氏名は抹消されているが、古川初雄は市長選挙における当選の効力に関し異議を申立てることには賛成していなかつたため、後日同会代表者である前田幸作に交渉しその諒解を得た上、福岡市選挙管理委員会に申出でてその氏名を抹消したことが認められる。しかし右の異議が福岡市政刷新会の申立によるものである場合でも、その申立に賛成しなかつた委員が同会の代表者の諒解を得て異議申立書から自己の氏名を抹消することはあり得ることであるから、これを以て該申立が同会の代表者又は委員個人の申立であることの証拠となすには足らない。従つて又これと本件異議申立に援用するわけにもゆかない。その他の本件証拠によるも前叙認定はこれを左右することができない。従つて本件異議及び訴願は適格を有しない福岡市政刷新会によつてなされたものであるから、これを前提とする本訴は不適法である。

加うるに、前示丙第十五号証の一乃至四によると、本件訴願は当選の効力に関する訴願であつて、選挙の効力に関する訴願とは到底認められない。従つて本件異議及び訴願を仮に原告前田幸作その他の個人によつてなされたものとみても、本訴は選挙の効力に関する適法な訴願裁決を経由したものではないから、この点においても不適法たるを免れない。

そこで民事訴訟法第八十九条を適用し主文のとおり判決する。

(裁判官 森静雄 竹下利之右衛門 高次三吉)

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